延命治療と獣医さんヤンは、大人になってからは病気らしい病気もしない食いしん坊の猫だった。でも、今年になってから、病院通いの日が増え、2月のある日。 食欲がなくなったヤンの状態が急激に悪くなった。 ぐったりとして、寝てばかりいる。両前足が「く」の字に折れ曲がり、 歩けない。 病院に連れて行って、血液検査をしたヤンの赤血球は、犬や人間なら 確実に死んでいるというほどの、低い値しかなく、 病院の先生も家族も「ダメかもしれない」そう感じていた。 すべては、注射した増血剤の結果が現れるか否か?にかかっていた。 「顔つきは悪くないんだけど・・・」そう先生に言われたヤンは きっと頑張ったんだろう。 無事に血も増え、5日ほどの入院で、また、いつもの食いしん坊のヤンに 戻っていった。 動かなかった両足も完全とはいかなくても、8割方は快復し、 日常生活に支障はきたさなくなっていた。 その後も、何度か食欲不振に陥ったりして、医者通いは続いていたが、 大事には至らず、なんとか、楽しい日々を私はヤンと共に送ることができた。 そう、この3ヶ月は、今までで一番、楽しく幸せな毎日だった。 ヤンが、また子猫に戻ったような表情で、私を見上げる。 私は、ヤンのしぐさが、今まで以上にかわいくてかわいくて仕方がなかった。 でも、それは、爆弾をかかえていたからなのだ。 小さいけれど、大きな不安。 その爆弾が爆発しませんようにと、毎日、祈りながらの生活。 5月、とうとう、その時が来た。 先生のところへ連れて行く。 そして、また、増血剤の注射。 でも、血ではない。腎臓そのものがもうボロボロなのだ。 先生が言った。 「あなたの言う通りにしてあげる」と。 迎えに行っても「まだ、ダメだ。返せない。明日来て!」 そう言う先生が、「あなた次第だ」と言う。 ヤンの顔を見て、私は決めた。 病院と言っても、そこは牢獄のよう。 きっと、甘えることもできない。 だから、「すぐ、連れて帰る」と。 ヤンは、その夜、久しぶりにいびきをかいて、私の枕元で寝た。 それから、毎日、ヤンの状態は悪くなる。 でも、ヤンは平気な顔をしている。 そう、先生が言ったように「顔つきは悪くない」 でも、ご飯を食べない。尿に血が混じる。 そのたびに、心が揺れた。病院へ行こうか?と。 迷うたびに、心が張り裂けそうだ。 ヤンは助かるのではないのか?と。 2度の奇跡もおこるのではないのか?と。 ヤンは、どんなに調子が悪くても、私の枕元で寝た。 お風呂のお湯も飲みに来た。 玄関まで迎えにも来た。 ヤンだけはいつもの生活を営んでいた。 それを見ていて、私は迷わなくなった。 ご飯を食べなくても、尿が赤くても、私も普通に振る舞った。 そして、たくさん、ヤンに話をした。 今までの思い出。そして、これからのこと。 水も飲めなくなったヤン。フラフラでも、最期までおしっこはトイレでした。 息を引き取る時には、布団からおり、私を呼んだ。 何度か大きく息を吐き、ヤンが逝った時、私は、延命治療をしなくて よかったと、始めて、心から思った。 先生、ありがとう。 ヤン、ほんとうにありがとう。 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|